コラム著者 大西 正裕 氏
<プロフィール>
■ Accel Track Club代表
■ 1987年12月17日生まれ
■ 千葉・松戸六実高校→順天堂大学→順天堂大学大学院
学生時代から400mに取り組み(自己記録50秒18)
大学院修了後の2012年4月にAccel Track Club(アクセルトラッククラブ)を発足。「夢の続き...」をスローガンに、生涯にわたって目標に挑戦するチームとして活動している。
陸上競技の走種目において、足は唯一地面と接している部位です。
どのように接地をするか、どのような意識をもってそれぞれの接地を使い分けるか、足裏から地面に対してどう効率的に力を伝えるかを理解することが重要です。
今回は、接地について詳しく解説をしていきます。
接地の種類について
足部は機能的な観点から「後足部」「中足部」「前足部」の3つに分類されます。足のどこで地面に着くか(接地するか)によってそれぞれ以下のように呼ばれることが一般的です。
- ・前足部での接地・・・フォアフット
- ・中足部(足裏全体)での接地・・・フラット
- ・後足部での接地・・・ヒールストライク
前足部での接地(フォアフット)
速く走る場合には、前足部で接地すること(フォアフット)が基本になります。
陸上競技(トラック種目)のスパイクシューズのピンがついている位置を考えると、イメージがしやすいと思います。
競技者の走行スピードが上がれば上がるほど、この傾向は強くなります。長距離の場合はかかとから地面に着くイメージがありますが、近年ではレースの高速化に伴い、長距離種目のトップ選手たちも、短距離走と同じように前足部で接地して走るランナーが増えてきています。
なぜ、フォアフットで走ることが大切なのでしょうか。
試しに、3種類の接地方法でジャンプをしてみてください。フラットやヒールストライクでは、身体の軸がブレたり、跳びにくさを感じるのではないでしょうか。
一方でフォアフットの場合、身体の軸がしっかりできて姿勢が安定するのを実感できると思います。
その軸の感覚や安定感が、走動作においては「接地時間短縮」や「効率のよい力の伝達」につながります。
つまり、速く走るためには3種類の接地の中で「フォアフット」が一番適しているといえるのです。
走ることが苦手な方はかかとから接地してしまい、姿勢が”く”の字になってしまいがちです。まずは、前足部で弾むことから始めてみましょう。縄跳びなどを使った連続ジャンプがおすすめです。
足裏全体での接地(フラット)
速く走るためのフォームとして「前足部」での接地が重要とお伝えしましたが、かと言ってすべてのトレーニングを前足部接地で行うことが正しいかというと決してそうではありません。
重い物を持ち上げる「スクワット」や「デッドリフト」のような、しっかり力を出すトレーニングを行う場合は、前足部や後足部(かかと)に重心が乗っていると身体のグラつきが発生し、思うような力を発揮することが難しくなります。
そういった股関節周辺の大きな筋肉(お尻周り)を鍛えるトレーニングの場合には、足裏全体を地面に接地で、しっかりと踏ん張ることができる状態(パワーポジション)をつくることが重要です。
大きな力を出すトレーニングをするときには、踏ん張りの効く足の付き方であるフラットで行いましょう。
安定した姿勢でトレーニングを行うことで股関節の筋力をしっかり鍛えられ、接地中の力を大きくでき、ストライドの向上につながります。
後足部での接地(ヒールストライク)
接地時間を短くすることや大きな力を出すことも大切ですが、走る競技で最も重要なことは「身体を前に移動させること」です。
フォアフットでのジャンプや、フラットでのスクワットには、前方方向への身体の移動は伴いません。唯一前方への動きのある接地が、かかとから着きつま先へ重心移動が生じる「ヒールストライク」です。
試しに、ヒールストライクの動きを行ってみてください。かかとから付きつま先で抜けることで、自然と脚のスイング動作が生まれ、身体が前に移動するのが感じられると思います。
ヒールストライクで「身体を移動させるための感覚」を習得することで、フォアフットで接地する速い走動作の局面でも、脚が後方にスイングして身体が前に進むスムーズな動作を再現することができるのです。
「脚が流れる」ことは良くないという話をよく聞きますが、前へ進もうと思うとどうしても身体より後ろに脚は動きます。
脚が身体よりも後ろに行くことを「脚が流れる」というのであれば、これは決して悪いことではなく、前へ進むためには必要なことです。
脚を流した後に、しっかりと返ってくる動きを覚える。すなわち「正しく脚を流す」ことが重要ともいえます。
「身体を移動させる動きを習得」し「正しく脚を流す」ために、ヒールストライクを意識した動きづくりにも取り組んでみましょう。
例えばバウンディングのように、地面に力を長く加える練習のときなどに実践するのがおすすめです。
「浮き指」という状態で足の指をうまく使えず、スパイクピンを使いこなせていない子どもたちにも、ヒールストライクの動きづくりはおすすめです。
かかとからつま先へ順に接地していくことで、しっかりと指先で地面を掴んで走れるような意識付けを行うことができます。
まとめ
トレーニングによって得たい効果に応じて、適切な接地を考えてみましょう。
同じ「バウンディングトレーニング」ひとつとっても、前足部で接地するパターン、足裏全体で接地するパターン、後足部で接地するパターンと3つが考えられます。
「かかとから接地することで、どんな効果が得られるのか?」「つま先接地ではどうか?」など、足先にまで意識を向けてトレーニングを行ってみてください。
足先ばかりに目を向けてしまい、本質を見失わないように注意が必要です。本質は、どこで接地するのかではなく、接地した後の脚や身体の動き(脚の軌道や重心の位置)がどうなっているかです。