障がい者トレーニング
下肢麻痺選手のバランスと体幹強化


コラム著者 渡部 真秀 氏

<プロフィール>

■ ユニバーサルスポーツクラブ with-W 代表

■ 昭和35年7月10日生まれ

■ 福島県生まれ、活動拠点は埼玉県


<障がい者陸上との関わり>
視覚障がい者(中長距離)のガイドランナー経験をきっかけに、身体障がい者ならびに知的障がい者の陸上競技指導に打ち込む。

<活動のモットー>
「スポーツは共に成長し共に未来を拓く」
明るく楽しく元気よくスポーツを楽しみ、
①少しでもレベルアップを目指したい
②気持ちよく身体を動かしたい
③豊かで充実した人生を拓きたい、と思うすべての方々の応援をする。

渡部 真秀 渡部 真秀

前回のコラムでは、障がい者のトレーニングにおける「用具を使用することの効果」についてお伝えしました。 今回は、障がいの中でも「下肢の麻痺」がある競技者へのアプローチとして、「腸腰筋と内転筋」に着目したバランスと体幹強化トレーニングについてお伝えします。
→前回のコラムはこちら

腸腰筋と内転筋の重要性

腸腰筋と内転筋は、走る動作における効率と安定性を支える重要な筋肉です。

腸腰筋:脚を前に振り出す動作(股関節の屈曲)を助け、姿勢の維持や骨盤の安定に役立つ。これにより、上半身と下半身をスムーズに連動させ、効率的なランニングを可能にする。

内転筋:脚を内側に引き寄せて着地の安定性を高め、左右のバランスを保つ。特に着地時の脚のブレを防ぐことで、膝や股関節への負担を軽減・ケガの予防につながる。また、不整地での方向転換もサポートする。

密接に連携するこの二つの筋肉が協調して働くことで、骨盤が安定し、滑らかで効率の良いランニング動作につながります。
さらに、腸腰筋と内転筋は下半身の安定性を支えるため、双方を鍛えることは膝や腰の負担の軽減・ケガの予防にも効果が期待されます。

下肢麻痺選手のトレーニングにおける難しさ

腸腰筋と内転筋を鍛えるトレーニング(ランニング動作)では、次の3つの点に注意して取り組むことが重要です。

  • 目線を進行方向に向ける
  • 膝を曲げずにまっすぐ伸ばす
  • 頭のてっぺんが引っ張られているイメージで、一本の棒になる意識をもつ

しかし下肢に麻痺がある場合、これらの動作を正確に行うことは容易ではありません。
運動麻痺のため思いどおりに体を動かせない選手や、感覚障害によって関節の角度や荷重感を感じにくい選手も少なくありません。
そのため、動作の意識においては視覚に頼らざるを得ない場合も多く、進行方向に目線を向けること自体も難しくなります。

メガソフトメディシンボールを使ったトレーニング方法

前述の課題には、一定の大きさとやわらかさをもつメガソフトメディシンボールを用いたトレーニングが効果的です。
麻痺している筋肉を意識的に動かすことは難しいものの、ボールを両足で挟むことで、内転筋にアプローチしやすくなります。
以下に、具体的な方法を3つ紹介します。

① その場でのポゴジャンプ

ボールを両足首付近で挟み、その場でポゴジャンプを行います。
内転筋に意識をもたせることで腸腰筋に刺激が入ります。体幹を意識しながらジャンプすることで、バランス感覚を養います。

② 直進でのポゴジャンプ

ボールを両足首付近で挟み、6~8m程度の直線を進みながらポゴジャンプを行います。
進行方向に目線を向ける練習と同時に、下半身の連動性を高めます。

③ ジグザグでのポゴジャンプ

ボールを両足首付近で挟み、6~8mの範囲でジグザグに進むポゴジャンプを行います。
方向転換を伴う動きにより、バランスと反応速度を鍛えます。

※ポゴジャンプとは…膝を曲げずに小刻みなジャンプを繰り返すトレーニング

1~3のトレーニングを最低3セット繰り返します。
使用するボールの重さは、麻痺の程度に合わせて調整しますが、最初は1kgから始めることを推奨します。(メガソフトメディシンボールの重量ラインナップは1kg~6kg)
選手一人ひとりの状態に合わせて無理なく進めることが大切です。

MVMV

メガソフトメディシンボールを使ったトレーニングの効果

メガソフトメディシンボールを使ったトレーニングを継続することで、動きの意識や視線のコントロールに課題を感じる競技者でも、効果的に内転筋への意識を高め、腸腰筋の働きを強化することができます。
これは、バランス感覚や体幹の強化をはじめ、さまざまな効果につながります。

① 姿勢の改善と軸の確立

ボールを挟んでジャンプすることで、不安定な前屈みの状態から徐々に上半身が立ち上がり、体の軸が整っていきます。
これにより、自然な姿勢が身につきます。

② 両足で地面の力を活用

健側(障がいがない側)の足だけでなく、麻痺側の足も使って地面からの力を上半身に伝える感覚が養われます。
これにより、走り動作へのスムーズな移行が可能になります。

③ バランス・リズム・タイミングの習得

体幹を意識して動かすことで、バランスやリズム、タイミングをつかむ練習になります。
身体を上手にコントロールできるようになることで、日常や競技での動きが安定します。

④ 麻痺側の筋力向上

麻痺側の筋肉を使うことで、筋力アップにつながります。
リハビリ効果も期待でき、障がいのある部分の動きが徐々に向上していきます。

⑤ 心肺機能の向上とウォーミングアップ効果

このトレーニングを行うことで心拍数が上がり、適度なウォーミングアップになります。

ディレクションリングの例(前回のコラム参照)と同様に、この場合も用具を使うことによる「楽しい」という感覚による動機付けや、トレーニングの量・質の可視化、言葉によるコミュニケーションを最小化などが、障がい者トレーニングにおける可能性を広げていると感じています。

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